大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和34年(む)2号 判決 1959年3月04日

申立人 伊藤一則

決  定

(申立人(被告人)氏名略)

右の者から昭和三十四年二月十九日名古屋地方裁判所裁判官村元尚一が為した勾留理由開示に対しその取消を求める準抗告が為されたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を棄却する。

理由

本件申立の要旨は「申立人は昭和三十二年十一月七日名古屋地方裁判所裁判官によつて勾留され、以後引続き勾留されているものであるが、このたび勾留理由開示の請求を為したのに対し、名古屋地方裁判所は刑事訴訟法第六十条第一項に該当する旨を告知決定した。しかし右決定は失当であるからこれを取消して更に相当の裁判を求めるため本準抗告の申立に及ぶ」というにあつて勾留の理由がないことを縷々説明している。

申立人被告人伊藤一則他一名に対する詐欺被告事件及び申立人に対する勾留理由開示手続の記録によれば、申立人は昭和三十二年十一月七日名古屋地方裁判所裁判官の発布した勾留状により勾留され、同月二十六日詐欺罪で起訴されて同裁判所単独係村元尚一判事の審理を受け、昭和三十三年七月十一日から九月十一日までと同年十二月二十七日から昭和三十四年一月二十二日までの期間病気のため勾留の執行を停止された外は引続き勾留されたものであるが、同年二月十四日勾留理由開示の請求を為したところ公判裁判所である村元判事により同月十九日勾留理由の告知のあつたことが認められる。

申立人は右の勾留理由の告知に対して刑事訴訟法第四百二十九条に定める準抗告をしているのであるが、(1)同条の準抗告は起訴前又は第一回公判前に裁判官が為した裁判の取消、変更を求める手続を定めたものであつて、本件のように既に証拠調に入つた後の審理を担当する裁判官(即ち裁判所)が為した裁判に対する不服申立の手続を定めたものではないから、先ずこの点において本件申立は不適法であり、(2)次に勾留理由開示の手続は勾留の当否を決定する裁判ではなく、理由を開示するという一個の訴訟手続にすぎないのであつて、これに対する不服申立の方法はないからこの点においても本申立は不適法である。もし申立人において申立書に記載したような事情があるとするなら、勾留の取消又は保釈の請求等の申立を為すべきである。

よつて本件申立は不適法として棄却する。

(裁判官 井上正弘 平谷新五 水野祐一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例